あきらめるか、美容外科を追求するか
脇の下で測った平熱が三六・五度以上ある人でも、末端に冷えがある人は、低体温の予備軍ということができます。
冷え性を低体温に進行させないためにも、筋肉トレーニングを日々の生活に取り入れ、全身の体温を高い状態に保つようにしていただきたいと思います。
体温を上げるためには、筋肉を鍛えることが必要だということ、そして、筋肉を鍛えるためには、無酸素運動が有効だということは、おわかりいただけたと思います。
では、体温を上げるためには、どの程度の無酸素運動をすればいいのでしょう。
「腹筋三○回腕立て伏せ三○回スクワット五○回これを三セットずつ!」というような具体的な回数を知りたいと思っていた方には期待を裏切ることになりますが、じつは筋肉を鍛えるうえでもっとも大切なのは回数や負荷ではないのです。
筋肉を鍛えるうえでもっとも大切なのは、「脳から筋肉への神経の経路を鍛える」。
たしかに回数を増やしたり、徐々に負荷を増やしたりしていけば、筋肉は太く発達していきます。
でもそれは、いわば「見せかけだけの筋肉」にすぎません。
本当の意味でパフォーマンスを発揮できる筋肉を身につけるためには、脳から筋肉への神経の経路を鍛えることがとても重要なのです。
脳から筋肉への神経の経路を鍛える。
それは脳が指令を出してから筋肉が反応するまでの速度を上げるトレーニングをするということです。
具体的にいえば、負荷は軽くていいので、自分の筋肉が発揮できる最大のスピードで筋肉を動かすということです。
たとえば、ベンチプレスなら負荷は三○〜四○キロ程度(これは自分がラクに上げられる重さでいいので、もっと軽くてもかまいません)でいいので、とにかくそれを最大限のスピードでプッシュアップするのです。
このトレーニングはマシンがなくてもできます。
距離は一○メートルでも二○メートルでも、短くていいので、とにかくゴールまで一秒でも早く到達するように全力でダッシュする。
これでも神経経路は充分鍛えられます。
回数は一回でもかまいません。
ニ回、三回と回数を重ねれば、それだけ効果も高まりますが、回数を行うことによってスピードが落ちるくらいなら、回数は少なくてもいいので、とにかくいまの筋肉がもてる最大限の能力を引き出すことを心がけてください。
このトレーニングでもっとも重要なのは、回数でも負荷でもなく「クオリティ」たんに筋肉を鍛えるだけでなく、ダイエットも行いたい人は、このように全速力でニ○メートル走ってから、三十分間のウォーキングなり、ジョギングなりをすると、最小限の運動で、最大の結果を得ることができます。
アメリカンフットボールを見ていると、ランニングバックの選手は、ボールをもった状態で、全速力で走りながら、さらにタックルをかわすために直角で曲がるという神業を見せますが、こうしたことができるのも、神経経路を鍛えるトレーニングを積んだ結果です。
アメリカのプロスポーツ選手が皆すばらしい身体能力を発揮できるのは、じつはこうしたトレーニング法が日常のトレーニングに組み込まれているからなのです。
でも残念なことに、日本では一般の人の筋肉トレーニングはもちろん、プロに対する指導でもこうしたトレーニング法は行われていません。
その結果が如実に表れたのが、私はB選手とK選手の違いだと思っています。
私はK選手が好きなのですが、K選手の筋肉は、見た目だけはBです。
B選手に引けをとらないほど立派です。
でも、そのパフォーマンスとなると、残念ながらB選手には遠く及ばないといわざるを得ません。
K選手は、体重九○キロのとき、ベンチプレスの最高重量が一四○キロだったといいます。
たしかに一四○キロを上げること自体はすごいことなのですが、あれだけの筋肉があるのなら、本当は一六○キロとか一八○キロ程度上げられなければならないはずなのです。
それが一四○キロ止まりだったということは、トレーニングのクオリティがよくなかったということです。
また、K選手は、何度もけがに悩まされてきましたが、これも、筋肉の質を高めないまま筋肉量を増やしてしまった結果といえます。
上半身の筋力に比べて、下半身の筋肉のバランスにも問題があったといえます。
K選手は日本人としては非常に恵まれた資質をもっていました。
あれだけの筋肉をつくり上げられる人は滅多にいません。
それだけに、神経経路を鍛えるトレーニングを行っていればと思うと残念でなりません。
アメリカでこうした「筋肉の能力」ということが注目きれるようになったのには、一つのきっかけがありました。
それは、高齢者の車の事故が急増したことでした。
日本でも最近、高齢者ドライバーによる事故が増えていますが、これは加齢とともに脳から筋肉への神経経路が衰え、脳が命令を発してから、実際に筋肉がその指令を実行するまでにかかる時間が長くなることが原因です。
また、ブレーキとアクセルを踏み間違えるなど、脳の命令を間違えてしまうのも、同様に経路が衰えることが原因脳が危険を察知し、ブレーキを踏むよう命令を出してから、実際に足の筋肉が動いてブレーキを踏むまでの時間を、二十代と六十五歳で比較したデータがありますが、それによると、時速六○キロで走行していた場合、六十五歳の人は二十代の人が停止した位置からニ○〜三○メートルもオーバーした位置でやっと止まったといいます。
しかし、そうした神経経路の能力が衰えた人でも、脳から筋肉への神経経路を鍛えるタイプの筋肉トレーニングを重ねると、反応の速度と精度がアップすることがわかっています。
そして、神経経路が鍛えられた筋肉と、神経経路を鍛えず、ただ大きくしただけの筋肉では、神経経路を鍛えたほうが、基礎代謝の増加量があきらかに大きいこともわかってきました。
つまり、神経経路を鍛えることが、より効率よく体温を上げることにもつながるということです。
脳と筋肉の経路を鍛えるメリットは、これだけではありません。
じつは、脳から筋肉への神経経路を鍛えるということは、筋肉のパフォーマンスを向上させると同時に、脳のパフォーマンスも上げるトレーニングになるのです。
筋肉をつけるトレーニングをすることが、同時に脳トレになるということです。
一九八○年代のアメリカでは、運動といえば有酸素運動が主流でした。
二十五分間運動すれば脂肪が燃焼されるということで、若い人から高齢者まで、健康促進のためにと、さかんに有酸素運動が行われたのです。
しかし、有酸素運動をいくらしても、先ほど述べたように高齢者の車の事故は一向に減りませんでした。
そこで運動効果が新たな側面から検証されることになり、九○年代の半ばごろから、無酸素運動で筋肉を強化することが、事故防止と同時に、老化防止にもつながるという研究結果が出はじめたのです。
アメリカではこうした研究成果を踏まえて、筋肉を鍛えることが国家レベルで推奨されました。
その結果、いまでは筋肉を鍛えることが、体にとっては体温アップにつながり、脳にとってはボケ防止になり、日常生活では事故防止につながるという知識が、一般の人たちにまで広く浸透してきています。
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